アートセラピーで癒しと気づきを

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臨床アートセラピーの歴史

アートと癒しのつながり

アートと癒しのつながりは人類がまだ狩猟生活をしていた太古にまでさかのぼることが出来ます。当時は人間・動植物・自然が1つに溶け合い、人の体・心・意識・霊性も密接に繋がっていました。そしてそこでは、アートと癒しはシャーマンの儀式の中で切り離し難く結びついていのです。

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ところが近代において物質主義・科学主義が台頭する中で、いつしか心と体、人と自然が切り離され、価値を自己の外の求めた多くの人が本来の自分自身を見失ってしまうこととなりました。

さらにその見失ってしまった全的な自己を回復するべくしてあった過去のシャーマンによる伝統も、この近代主義の流れの中で、専門職としての宗教家による祈祷や儀式、国家資格に裏付けられた医師による治療行為、プロのアーティストによる芸術作品の制作という風に分離・細分化してしまうこととなりました。

そこにおいては、もはや体・心・意識・霊性といった内なる全体性、そして動植物・自然さらには宇宙まで繋がっていた統合的な人間性は、それを再統合し取り戻していくための手立てすらが、現代社会においては奪われてしまうこととなりました。

その結果、現代に生きるわれわれは、体も心も悲鳴を上げ、深刻な心の病や様々な社会問題が浮上してくることとなります。そして今ほど自分を取り戻すことの大切さ、人間性の回復の必要性を多くの人々によって叫ばれてきている時代は無いと思われます。


深層心理学の登場

このような近代合理主義の中で、「人間の心の中には、理性的な理解では捉えることのできない無意識の領域が存在する」ということを高らかに宣言したのは、20世紀の初頭に「夢判断」(1900)を出版した S.フロイトです。

彼は、決してうかがい知ることのできない人間の心の内部に大胆な仮説を立て、それに基づいて精神分析というメソッドを生み出しました。この精神分析の流れは20世紀初頭にアメリカに渡り、行動療法と並び20世紀前半のアメリカ心理学の2大潮流を形成することとなります。

また、精神分析そのものの広がりはA.アドラー(個人心理学)、C.G.ユング(分析心理学)、F.パールズ(ゲシュタルト療法)等々、実に数多くの人々に直接間接の影響を与え、多様な心理療法の流れを生み出していくこととなります。
 
アートセラピーが誕生する下地には、近代社会においてその前提となるこのような深層心理学に基づいた心理療法の発達が不可欠だったのです。

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アートセラピーの誕生とその発展

アメリカのアートセラピーのパイオニアとされているのは、主として1940年から60年代に活躍したマーガレット・ナウムブルグです。彼女のスタイルは精神分析を基礎にしてあり、クライエントの自由連想を通して絵に表現された無意識の葛藤の内容を明らかにしていくというものでした。具体的には、作品は(夢と同様に)無意識の中で起こっていることを映し出す鏡の役をすると捉え、「自発的描画法」や「なぐり描き法」などの技法を用いてその隠された内容を明らかにし、精神分析に基づいた“力動的アートセラピー”を実践していきました。

Margaret Naumburg

マーガレット・ナウムブルグ

やがて1950年代に入ると、ハンガリーからナチスに追われて亡命してきたイーディス・クレーマーが、ニューヨークのスラムの情緒障害児などを対象にアートセラピーを行い、活動を始めます。そして彼女は、アメリカのアートセラピーの第2のパイオニアと呼ばれるようになります。

Edith Kramer

イーディス・クレーマー

 
1960年代は、黒人の選挙権獲得のための公民権運動に始まり、キューバ危機、それらに関係していたケネディー大統領やマーティン・ルーサー・キング氏の暗殺、ベトナム戦争への突入、それに反対する反戦運動やスチューデント・ムーブメント、そしてウーマンリブ、ヒッピー現象、ビートルズ旋風といった怒涛のごとき社会的うねりを体験した時代でした。

アートセラピーは、まさにこのような背景の中から人々の前面に登場してきたのです。そして、1969年にアメリカ・アートセラピー学会(American Art Therapy Association : 通称AATA)が設立され、翌1970年に最初の大会が開かれます。

そして驚くべきことに、1971年から1979年の8年間に22校の大学院と41校の大学学部、そして10の臨床アートセラピー・トレーニングプログラムが設立されるという、奇跡的な展開を見たのです。1997年までには55校の大学院でプログラムがあり、そのうち36校では修士号が授与されています。

このように、現在のアメリカにおいては、アートセラピーの専門職としてのアイデンティティーは社会的に十分認知されたものになっています。

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